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Triangle 16
(16話/罰ゲームデート)

それから俺はその日に向けての準備に数日を費やし、とうとう当日を迎えた。

魅音がせっかくおしゃれをしてくるのだから自分もそれなりの格好をしていくべきかと思い散々悩んだが、
俺がそんな服を持っている訳もなく自分の服の中で一番気に入ってるものを選んだ。
デートコースまで考えて行こうかとも思ったが、やる気満々だと思われるのが嫌で行き当たりばったりで行く事にした。
それに魅音と一緒ならどこだって楽しいに決まってる。
来月分の小遣いも前借りしてきたし、あとは心の準備だけだ。
せっかく詩音がくれた魅音と二人だけでいられるチャンスだ。下手な事はしたくない。

俺は詩音が指定した興宮の待ち合わせ場所でそわそわしながら魅音を待った。

少しして、白いワンピースに身を包み、少し緊張した面持ちの魅音が現れた。
しかし俺の姿を捉えるなり魅音の目が丸くなった。
「あれ、圭ちゃんがもう来てる!」
「なんだよ、来てちゃ悪いかよ」
魅音の開口一番の言葉に拍子抜けした。
「だ、だってまだ待ち合わせの10分前だよ?圭ちゃん待ち合わせ前に来た事ないじゃない!」
「お前に言われたくない!それはお互い様だろ。……遅れたら詩音に何言われるかわかったもんじゃないからな」
思わずそう言って時魅音から顔を背けた。
「そりゃそうだけど…」
魅音が納得してくれて内心ホッとした。
今日は学校に行くより早く目が覚めて、ずっとそわそわ落ち付かなくて、
いても立ってもいられず待ち合わせの一時間前からこの周辺をうろうろしていただなんて…
絶対に魅音に知られる訳にはいかない。

改めて魅音のワンピース姿を見ようと視線を動かすと、胸元のネックレスに目が止まった。
「…あ、そのネックレスまだ持っててくれたんだな…」
それは俺が魅音の誕生日にあげたネックレスだった。
すると魅音は複雑な表情で微笑んだ。
「…何度も捨てようかと思ったけど捨てられなかった」
その表情に胸がちくりと痛む。
その痛みを振り払うように俺は魅音の手を取った。
「ほら、行こうぜ」
今日は魅音に悲しい思いはさせたくないし、したくない。
だから俺はとびっきりの笑顔で笑った。
そしてふと、勢いで手を握ってしまったもののどうしていいか分からず照れて一瞬止まってしまった。
目を丸くして俺を見る魅音の視線にいたたまれなくなり、体を反転させて魅音の手を引いて歩き出した。
どうか、この真っ赤になったカッコ悪い顔を見られていませんように。

「…さて、どこ行くかな」
「もうさっさと歩いて終わらせようよ」
「それじゃダメだって詩音が言ってただろ」
「ううう~」
もはや言葉にならないうなり声をあげ、赤くなってむくれる魅音が可愛くて思わず顔が綻んだ。


しばらく歩いていると、以前詩音と入った雑貨屋があった。
「魅音、あそこに入ろう。そんな安物のネックレスじゃ合わないから新しいの買ってやるよ」
「えっ?いいよそんなの!…ちょっと圭ちゃん!」
俺は魅音の手を引いて強引に雑貨屋に入って行った。
魅音は中に入ってその可愛らしい雰囲気に戸惑っているようだった。
ネックレスが並んでいる場所へ行き、魅音に尋ねた。
「どれがいい?」
「いらないってば…私が持ってたって使わないしもったいないよ」
「魅音、今日は俺の好きな格好をするんだったよな?これは罰ゲームだ。さぁ選べ」
「だったら圭ちゃんが選んでよ」
「俺はどれにしたらいいか分からないから魅音に聞いてるんだ」
魅音はそれでもまだゴネていたが、ひとしきりそうした後におずおずととあるネックレスに指を差した。
「じゃあ…これ」
「え…?」
俺は魅音が選んだネックレスを見て驚いた。
魅音が指さしたそれは以前詩音が欲しがっていたものだった。
「だ、だから似合わないって言ってるのに…」
魅音は俺の反応を勘違いをしたらしく、慌てて手を引っ込めた。
「あ、違う違う。そうじゃなくてそのネックレス、前に詩音も欲しがってたから…」
俺はその時の事を思い出す。
それを欲しがる詩音を見て俺は何て言った?

『詩音はこういうの好きなんだな。魅音はまるで興味なさそうだけど』

魅音はこんな可愛いものには興味がない?
俺はなんという勘違いをしていたんだ。
魅音は最初から可愛いもの見て可愛いと思う普通の女の子だったんじゃないか。
「…魅音、お前の事男みたいだなんて言ってごめんな」
「なっ?!何言って……圭ちゃんが選べって言うから選んだだけで別にこういうのが好きな訳じゃ…!」
「はいはい分かったよ。じゃあこれにするか」
真っ赤になって慌てて言い訳をする魅音の頭を撫でた。
あの時はお金がなくて詩音には買ってやれなかったけど今日はそれなりに用意してきている。
そう思ってふと詩音の顔がよぎった。
「あ、でも魅音にだけ買ったら詩音怒るかな?」
かと言って二つも買える程お金に余裕があるわけではない。
「え…?ああ、じゃあ私はいいから詩音に買ってあげなよ」
「いや、駄目だ!これは魅音に買う。詩音にはまた別の機会にって事で」
俺はネックレスと魅音の手を握りレジへ向かった。


店の外に出て、俺はネックレスを魅音に渡した。
「ほら、これしてみろよ」
魅音は抵抗を諦め素直にネックレスをつけようとした。
「あ、あれ…」
しかし、うまくつけられず何度も首元でで手を動かしていた。
少しの間それを眺めていたが、なかなかうまくいかないので見かねて声をかけた。
「何やってんだよ、ほら貸してみろ」
「ふぇ?あ…」
そして俺は魅音の後ろに回り、返事を待たずにネックレスを奪った。
女の子にネックレスをつけるなんて経験は初めてで、少しドキドキした。
「こんな小さい輪っかに通すのか…こりゃ見てやらなきゃ出来ないな」
そういえば詩音はネックレスの着け外しは上手だったな。
見た目はこんなにそっくりなのに性格は正反対。
この不器用さが魅音らしくて、魅音に気付かれないよう小さく笑った。
「よし、出来た」
「あ、ありがとう」
なんとか無事にネックレスをつけ終わると、魅音がおずおずと俺の方に体を向けた。
自信なさげに、窺うような目で俺を見る魅音の胸元を眺めて、満足して笑った。
「やっぱりそっちの方が似合うな。高かったんだから大事にしなかったら承知しないぞ」
「うん…ありがとう」
ネックレスを褒めてやると魅音は嬉しそうに微笑んだ。
今まで見たことがないくらいの素直な可愛らしい笑顔に胸が甘く締めつけられる。
今回のこの罰ゲームで数え切れない程俺の知らなかった魅音の顔を知った。こんな魅音、詩音が機会を与えてくれなければ知らないままだったかも知れない。
最初はからかわれているという思いの方が強かったが、今となっては詩音が俺と魅音に気を使ってくれているのが良く分かった。
詩音にも改めてお詫びとお礼をしなきゃいけないな。
そんな事を考えながら俺は魅音の手を握った。

その後も目についた店に入ってみたり、お茶したり、大騒ぎしながら街を練り歩いた。
魅音も徐々に開き直って恥じらう様子を見せなくなっていった。
俺達はいつも通りにふざけ合って笑い合った。
二人で過ごす時間が楽しくて嬉しくてたまらない。
このままずっと魅音とこうしていたかった。
魅音と一日過ごして改めて今日の女の子らしい魅音もいつもの楽しい魅音もどちらも大好きだと心から思った。




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