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Triangle 11
(11話/罠)

翌日、魅音はいつもの待ち合わせ場所にいた。
魅音はいつも通り明るい笑顔で挨拶した。
「おはよー!遅いぞ!」
「魅ぃちゃんおはよう!ごめんね、圭一くんがなかなか来なくて」
「まったくしょうがないなぁ。早く行こ!」
だが、その笑顔は俺に向けられたものではない。
魅音は相変わらず俺をまともに見ようとはしなかった。

その後、隙を見て魅音と話をしようとするも、ことごとくかわされてしまう。


もうこうなったらこれしかない!

俺はこっそり部活メンバーを集めた。
「頼む!俺に手を貸してくれ!」
俺はみんなの前で手を合わせて頭を下げた。
「魅ぃちゃんに謝るの?」
レナはまるで事情を知っているかのように、いやに冷めた目で言った。

“忠告したのに”

そう言われたような気がした。
「圭一、詩ぃにはちゃんと謝りましたですか?」
そして突然、梨花ちゃんが真面目な顔で尋ねてきた。
「ああ、謝って気持ちを全部話してきた」
「詩ぃは許してくれましたか?」
「…ん…どうだろうな。一応和解した感じにはなったけど」
梨花ちゃんがこんなに真面目に食いついてくるとは思わず、驚いたが俺も真剣に答えた。
「なら良かったのです」
俺の答えを聞くと梨花ちゃんはいつものようににぱー☆と破顔した。

そして俺はみんなに状況を説明し、魅音と話が出来るよう協力を仰いだ。
途中沙都子に最低だなんだと罵られながらも、みんな最後まで話を聞いてくれた。
「つまり部活で勝って、罰ゲームとして魅音さんと話が出来るようにして欲しいという事ですわね?
 罰ゲームでなんて卑怯な手を使いますのね」
「朝からずっと魅音と話をしようとしても全く取り合ってもらえないんだ。もうこれしかないんだよ。頼む!」
俺は年下の女の子に情けなくうなだれて必死に頼み込む。
「魅音さんを陥れるのは骨が折れますわよ?それなりの代償は払っていただけるのでしょうね?」
沙都子はため息をついて、仕方ないとでもいうように俺に尋ねた。
「もちろんだ!協力してくれたら一日何でも言うことを聞く!」
「…圭一くんの自業自得だけど…一度くらいやり直すチャンスがあってもいいのかな…それに圭一くんお持ち帰りできるしね☆」
レナは最初は冷めた口調のままだったが、最後はいつもの調子に戻っていた。
「圭一にあんな事やこんな事をさせてしまうのです」
彼女達は各々俺への命令に思いを巡らせているようだった。
その中身を考えるととてつもなく恐ろしかったが、ともかく俺の捨て身の頼み込みに乗ってくれたようだった。
「みんな、ありがとう」

みんな協力を得て、作戦会議が始まった。

そして俺達は部活のセッティングから種目まで入念に準備し、部活に望んだ。
種目はレナがさりげなく魅音に提案し、罰ゲームも魅音が悩んでる間に梨花ちゃんがうまい言い訳をつけて「ビリが一位の命令を聞く」に決定した。

今日の勝負はジジ抜きだ。
トランプには傷や爪痕などの目印がついているので、それをさりげなく見せ合ってうまく勝利を目指すという作戦だ。
最後に沙都子がトラップを使って魅音を負かす事になっている。沙都子は自信満々に高笑いをしていたが、トラップの内容は教えてくれなかった。

そしていよいよ戦いの火蓋が切って落とされた。
序盤はあまり飛ばさず、バレない程度に手札を減らしていく。
魅音に気付かれないよう細心の注意を払ってサインを出し合う。

そして調子良く手札が減っていき、とうとう最後の一枚になった時。
「圭一くんが欲しいクローバーの7はどれだと思う?」
この肝心な時にレナが手札を教えてくれないのだ。レナは今までもその時必要なカードしか教えてくれなかった。
「圭一くんが心から勝ちたいと思うならこのくらい乗り越えられるよね?」
レナの表情は真剣だ。
梨花ちゃんと沙都子は驚きながらも黙って見守るしかなかった。
「圭一くん、勝負だよ」
そう言ってカードを持つ手を俺に突き出した。
レナはあくまで退くつもりはないらしい。
そうだよな、ここまでしてもらっておいて今更だが、最後くらい自力で勝たなきゃ魅音に顔が立たない。
「上等だ!引いてやる!」
そしてレナのカードをまじまじと観察する。
クローバーの7は傷が結構あちこちついているのでそんなに難しくもないはずだ。
しかしそこは百戦錬磨の部活メンバー、そう簡単に分かるような隠し方はしていない。むしろ全部を隠さず他のカードを偽装している。
よくカードの特徴を確認してみても2枚にまでは絞れたがどちらのカードなのか確信が持てない。
レナに尋ねて反応を窺ってみても顔色一つ変えずに微笑んでいるだけだった。口元は笑っているが目は全く笑っていない。
くそ…!こうなったら勘に頼るしかないのか。
とは言え確信は持てずともなんとなくこちらではないかという感覚はあった。

そして俺はついにそのカードを引いた。

その瞬間レナの口元がニヤっと歪む。俺は恐る恐るそのカードを見た。
「よし!あがりだっ!」
俺は勢い良く二枚のカードを叩きつけた。
こうして俺の一位が確定した。
「はぅ~~圭一くんあがっちゃった!よ~しレナも頑張るよ!」
さっきまでの恐いくらいの真剣な顔はどこへやら、レナは急にいつも通りのテンションになっておどけた。
その時ふと魅音と目が合った。
魅音はさっきからいやに静かだった。中盤くらいから既に気付いていたかも知れない。
魅音はあからさまに不機嫌そうにふいと顔を背けた。
その仕草に胸がちくりと痛む。
魅音を陥れて罰ゲームをさせようとしている事と、魅音に避けられている事が二重に俺の心を苛んだ。
だけど、もうまともに話もしてもらえないなんて耐えられない。

そうこうしている間にもゲームは進み、レナや梨花ちゃんが順調にあがっていった。
そして魅音と沙都子の一騎打ちとなった。
現在魅音がジジを持っていて、沙都子の手札は残り一枚。沙都子がジジを引かなけば上がりだ。
「あんたたち…やってくれるじゃない。だけど思い通りにはならないよ」
魅音は俺達を見渡して睨んだ。
「魅音さんには申し訳ないですけれどこの勝負は私の勝ちなのですわ。さぁ魅音さん覚悟は決まりまして?」
「早く引きなよ沙都子」
張り詰めた空気が教室を包み、みんな固唾を飲んで二人を見守った。
頼む、沙都子…!

沙都子は迷いなく魅音からカードを抜き取った。
「おーっほっほ、勝負ありましたわね」
そして二枚のカードをその場にひらりと捨てた。
「なっ?!」
「えっ?どういう事?!」
その場の全員が目を見開いた。
何故なら沙都子が捨てたのは誰もがジジだと思っていたカードだからだ。
「何を驚いていますの?ジジはハートのキングではありませんの。よく見てご覧なさいませ」
みんながジジを確認すると、確かにハートのキングだった。
だけど最初に見たあのジジは少なくともハートのキングじゃなかったはずだ。
魅音がジジを引かせようとするのを承知の上で、ジジをすり替えていたのだ。
そういう事か沙都子!
「ちくしょうやられた!」
魅音が悔しさを隠そうともせずに叫んだ。
「今日の罰ゲームは魅音さんですわね!圭一さん、後はお好きになさいませ」
「ほら圭一くん」
俺は魅音に後ろめたさを感じつつもみんなに後押しされ、口を開いた。
「…魅音、俺の話を聞いてくれ」
魅音は悔しそうに俺を睨みつけた。
「魅ぃちゃん、話くらい聞いてあげてもいいんじゃないかな…」
「………罰ゲームなら仕方ないね」
レナの声に渋々魅音は一言呟いた。
「悪いけどみんな先帰っててくれないか」
「仕方ないですわねぇ!」
俺がそう言うとみんなは支度をして帰っていった。






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