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刺と蜜
体育の時間、私達はいつものように騒ぎ回っていた。
部活で勝負がつき、散り散りになっていた私たちが再び集合地点にもどろうとした時、
レナが石灰の袋を運びながらよろめいているのが見えた。
「なんか重そうな物持ってるなー」
近くにいた圭ちゃんもレナを見て呟いた。
「魅音運んでやれよ。魅音ならあんなの余裕だろ?」
圭ちゃんがふいにニヤリと笑いながら放ったその言葉に胸がちくりと痛んだ。もちろん圭ちゃんに悪気はない。
だから私はその痛みをごまかしていつものように笑った。
「も、もちろん!あんなの楽勝だね!…………って圭ちゃん男の子なんだから自分で運んであげればいいでしょ~?!」
「ははは、へいへい!」
私が叫ぶと圭ちゃんは楽しそうに笑いながらレナの元へ走り去って行った。
私は急に気分が落ち込んでしまい校庭の隅に座り込んだ。
圭ちゃんが走り去って行った方向を見ると、石灰を運びながらみんなと楽しそうに戯れていた。
圭ちゃんが私の事を女の子として見てくれないなんていつもの事じゃないか。
それなのにこんなに落ち込んじゃうなんてどうかしてる。
もちろん今の関係は嫌いじゃない。
圭ちゃんとぶざけてる時は本当に楽しくてあっという間に時間が過ぎていく。
だから、今のままでいいんだ…最初はそう思ってた。
でもだんだん圭ちゃんに男同士みたいに扱われるのが苦しくなってきて…
「魅音?」
しばらくして、ふと気付くとみんなと戯れていたはずの圭ちゃんが私の目の前にいた。
「こんな所に座り込んでどうしたんだよ?具合悪いのか?」
圭ちゃんはそう言うと、しゃがみ込んで私のおでこに自分のおでこをくっつけた。
「け、圭ちゃん?!」
目の前に圭ちゃんの顔があって、そのあまりの近さに目眩がした。
それなのにそんな私をよそに圭ちゃんは真面目な顔で唸っている。
「…ちょっと熱い?」
それ以上耐えきれず、私は圭ちゃんから顔を離して慌てて手を振った。
「そそそんな事ないよ!ちょっと疲れたから休んでただけ!」
「本当に大丈夫か?無理するなよ?」
「大丈夫だって!もう心配性だなぁ!」
動揺を悟られないように精一杯の空笑いでごまかした。
「そっか。じゃあ魅音も早く来いよ!魅音がいなきゃ始まらないだろ?」
圭ちゃんは屈託のない笑顔で私に笑いかけてきた。
その笑顔に心臓がどくんと高鳴る。
…圭ちゃんはずるい。
全く私の事なんとも思ってないくせにそんなに優しくされたら……もっと好きになっちゃうじゃない…
「よし魅音、みんなの所まで競争だ!負けたら罰ゲームな!」
圭ちゃんは突然くるりと踵を返し、言い終わらないうちに走り出していた。
「えっ、ちょっとなにそれずるい!」
私も負けじと慌てて走り出す。
「待ってよ圭ちゃぁぁぁん!」
私は太陽の光に照らされた眩しい背中を必死に追いかけた。