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掌の温度
(お年賀リクエスト:冬の圭魅)

夏休みが過ぎてから、受験に向けて圭ちゃんに勉強を教えてもらう事になり、二人きりで過ごす機会が格段に増えた。
夏を過ぎ、秋から冬へと一緒に過ごしていく中でだんだん圭ちゃんとの距離が縮まってきている気がした。

ある日の放課後、今日はレナが用事があると言って先に帰ってしまったので、今日は圭ちゃんと二人だけで帰る事になった。
空を見上げれば真っ白な雪が舞っていた。

「うわ、また雪降ってきた」
「げ、しまった手袋忘れた!冷た~い!」
雛見沢の冬はとにかく寒い。真冬に毎日雪が降り続くなんて事は日常茶飯事。
東京から来た圭ちゃんは最初こそ雪に興味津津だったものの、今ではすっかり慣れたようだった。
私は掌を擦り合わせて息を吹きかけた。
「この寒いのに忘れたのか?何やってんだよ。しょうがねえな、ほら」
圭ちゃんは手袋を片方脱いで私に差し出した。
「へっ?いいよ圭ちゃんの手が冷たくなっちゃうよ」
「だから片方だけだ」
言いながら圭ちゃんは私の手に手袋をはめた。
「どうしたの圭ちゃんが私に手袋貸してくれるなんて」
本当はすごく嬉しいのに、つい恥ずかしくて茶化してしまう。
すると突然圭ちゃんが手袋をしていない方の手を握ってきた。
「けけけ圭ちゃん?!」
「こうすれば冷たくないだろ」
圭ちゃんはそっぽを向いてぶっきらぼうにそう言った。
真っ赤になった頬は寒さのせい?それとも…
「寒いからだぞ。手が冷たくて勉強出来ないなんて言わせないようにな」
「う、うん」
私、圭ちゃんと手繋いでる…?!
そう思ったら恥ずかしくて顔が一気に火照り出す。
手を握られただけなのに、それだけで頭の中が真っ白になって何も考えられなくなってしまう。
何か言わなきゃと思えば思う程何も考えられなくなって口を開いては閉ざしてを繰り返した。
圭ちゃんもずっと俯いて黙ったままだ。

繋いだ手のぬくもりがじんわりと身体を浸食してゆく。
こんなに温かいなら手袋なんて要らないな、なんて他愛のない事を考えてなんとか気持ちを落ち着かせようとする。
だけど鼓動は早まるばかりで、とても収まりそうにはなかった。


しばらく二人とも黙り込んだまま帰路を辿る。
相変わらず心臓の鼓動は鳴り止まず、何を喋ったらいいかとか、誰かに見られたらどうしようなんて事が頭の中をぐるぐる回っていた。
そんな中、突然身体を強く抱き寄せられた。
「魅音危ない!」
「ふぇっ?!」
急に引き寄せられ、体勢を崩し圭ちゃんの方に倒れ込む。
気付けば圭ちゃんの胸が目の前にあって、一瞬何が起こったのか分からなかった。
圭ちゃんの腕はしっかりと私の体を固定していて身動きが取れない。
大きなエンジン音に我に返り、音のした方を見ると車がすごいスピードで走り去って行った。
「道狭いのにスピード出しすぎだろ危ねーな」
圭ちゃんが車の消えていった方向を見つめて呟いた。
だけど私はそれどころじゃなくて口をぱくぱくさせてただ慌てる事しか出来なかった。
圭ちゃんが私の方に顔を向けると、至近距離で視線が合って一瞬時が止まる。
「……ご、ごめん」
「あああたしこそごめん!」
そして圭ちゃんは気まずそうに顔を背けて私を抱きしめていた手を離した。
その顔はみるみるうちに赤みを増していく。
私は突然の出来事に頭がついていかなくてただ真っ赤になって固まっていた。

結局その後も二人とも黙り込んだままいつもの別れ道までやってきた。
ここまでの道のりが気が遠くなる程長く感じられた。
「じゃあまたな」
圭ちゃんは一言呟くとそそくさと立ち去ろうとする。
あ、私まださっきのお礼言ってない…どうしよう、早く言わなきゃ。
「圭ちゃん…」
私は服の袖を引っ張って圭ちゃんを引き止めた。
「さっきは…ありがとう」
目も合わせられず、真っ赤になって俯いて小さな声で呟いた。
今圭ちゃんの顔を見たら恥ずかしさでどうにかなってしまいそう。
「…今度は気をつけろよ」
圭ちゃんは私の頭にポンと手を乗せ去って行った。

私はふわふわした足取りのまま帰宅し、部屋に戻ってそのまま布団に倒れ込んだ。
まだ圭ちゃんに抱きしめられた時の感触と熱が消えない。
外は雪が降っていて、室内だって十分な暖がなく普段なら凍えそうなくらい寒いのに、体温は一向に下がる気配がない。
それどころかさっきの事を思い出してさらに体温が上がってしまう。

私…圭ちゃんに…


また思い出して、恥ずかしくなって枕にぼふんと顔を埋めた。
そして枕を抱きしめてボーっとしてはまた思いだし一人悶えるという事をしばらく繰り返した。

その日、ことあるごとにその事を思い出し、私の熱が冷める事はなかった。


あとがき