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愛妻弁当
(圭魅+部活メンバー、詩音。)

「ふわあぁぁぁん!カボチャは嫌ですわ~!!」
雛見沢分校の昼休みに、沙都子の悲鳴が響き渡る。
「沙都子、好き嫌いは駄目です!ほら一口!」
そしていつからかカボチャ弁当を毎日持ってやってくるようになった詩音。
このやりとりが昼休みの日常の風景になりつつあった。
しかし詩音も毎日毎日よくもまぁ手を変え品を変えあんなにカボチャばかりの弁当を作ってくるものだ。
たまにカボチャが他のものに変わったりするが、沙都子が嫌いなものには変わりない。ある意味いじめのような弁当だ。
詩音は感心して弁当を眺めていた俺に気付き、こちらに振り向いた。
「なんですか圭ちゃん?これは沙都子に作ったお弁当なんですからあげませんよ?」
「け、圭一さんが食べたいのでしたら全て譲ってもいいんですのよ!」
沙都子が藁にも縋るような面持ちでこちらを見ていた。
「いや、毎日毎日よく作るなと思って。心配しなくても取ったりしないぜ、沙都子」
「ふわぁぁぁん!圭一さんのいじわるー!」
「そうですよ沙都子、圭ちゃんはお姉の愛妻弁当があるから私の弁当なんて食べないんですよね~?」
「「あっ…愛妻弁当~?!」」
突然とんでもない事を言い出す詩音に、傍観していた魅音と俺の声が見事にハモった。
魅音は顔を赤くして慌てている。
「何バカな事言ってんの詩音!」
「だって今朝も張り切って圭ちゃんの好きなものばっかり詰めてたじゃないですか!」
「なっ…何で知って…じゃなくてあんた見てないくせにいい加減な事言わないで!」
魅音は慌てると自ら墓穴を掘るような事を口走る。
そう言われて改めて魅音の弁当を覗き込んでみると、確かに普段俺が進んで箸を伸ばすようなおかずが並んでいた。
うわ…マジかよ?いつもそんなところまで見てたのか…
俺の好きな物を覚えてさりげなく作ってきてくれる魅音の気配りに胸を打たれ、暫し弁当に視線が釘付けになった。
詩音とやりあっていた魅音が俺の視線に気付き、再び頬を染めて勢いよく弁当の蓋を閉めた。
「べ…別に圭ちゃんの為に作った訳じゃないからね?!私の弁当なんだから圭ちゃんにはあげない!」
魅音は弁当を抱えて庇うように手で隠した。
こいつは照れると妙な意地を張る。
「じゃあ圭一くんにはレナの弁当をあげるね!沢山食べて!」
「ボクも可哀想な圭一にお裾分けなのです」
レナがすかさず弁当を差し出し、梨花ちゃんもそれに続いた。
すると魅音の顔がしまったという表情に変わった。
「はい圭一くん、あーんして?」
レナが俺におかずをつまんで口元まで運んできた。
「お、サンキューレナ!」
俺はニヤリとわざとらしく魅音の表情を伺いながらレナに食べさせてもらう。
「おいしいかな?かな?」
レナも大げさに可愛く首をかしげる。
「あぁうまい!やっぱりレナの料理はうまいよな~」
「良かったぁ~!圭一くんが喜んでくれて嬉しいよ!」
「け…圭ちゃん…」
わざとらしくイチャつく俺たちに、魅音はショックを受けて今にも泣き出しそうになっていた。
くっくっく。可愛いやつめ。
「ボクは圭一が大好きな煮物を作ってきたのですよ」
「どれどれ、おっ!この煮物は味付け具合が絶妙だよな~!うまい!将来いいお嫁さんになるぞ」
魅音はお嫁さん発言にまたしてもショックを受け既に半泣き状態になっていた。
「レナに梨花ちゃんありがとうな!これだけあればケチな魅音の弁当なんてなくても十分だよな」
俺はニヤニヤと魅音の顔を見てそう言った。
自分に視線を向けられて、とっさに魅音は目に涙を溜めながら俺を睨みつける。
「みんなこんなに優しいのに魅音はケチだよな~。弁当独り占めなんてさ」
「そ…そんなに食べたきゃ勝手に食べれば?!」
挑発してやると、魅音はようやく弁当の蓋を開けて俺の前に弁当を差し出した。
やれやれ、弁当一つ食べさせてもらうのにも苦労するぜ。
それを見ていたみんなの顔にも笑顔が浮かぶ。
特に詩音なんかは腹抱えて笑ってやがる。
「そういう圭一も顔がだらしなく緩んでいるのです」
俺は好きな物が並んだ弁当を覗き込んで、どれから食べるか悩みながら箸を伸ばした。
そしてそれを口に放り込む。
ん、流石魅音。味付けも調理具合も絶妙だ。文句なしにうまい!
魅音が心なしか不安そうに俺を見つめている。
「ん~、まぁまぁだな」
魅音にそんな顔をされるとついいじめたくなってしまい、心にもないことを口走ってしまう。
魅音は再びショックを受けてムキになる。
「だったらレナや梨花ちゃんの弁当食べてればいいじゃない!無理して食べなくてもいいよ!」
魅音は泣きそうになりながらまた弁当をひったくろうとする。
「待て待て、冗談だって。うまいよ、すげぇうまい」
俺はそれをなんとか阻止して魅音の頭をくしゃくしゃ撫でた。
「本当に?」
魅音はじとっとした疑いの目で俺を見る。
「ああ、魅音の弁当が一番うまいぜ」
「い、一番…?」
「魅音が俺のために作ってくれた弁当が一番うまい」
少々いじめすぎたので素直に褒めてやると魅音は顔を真っ赤にして固まった。
俺の行動や言葉にくるくる表情を変える魅音が愛しくてたまらない。
「あっはははは!もうお姉達面白すぎ!」
詩音が腹を抱えてヒィヒィ言っている。
「お前は笑いすぎだ」
俺は雑談をしながら次々と魅音の弁当を口の中に入れていく。
「結局魅ぃのお弁当はほとんど圭一が食べてしまったのです」
「残念だったな、お前らの分はねぇよ」
「わわ、圭一くんケチなんだ!」
真っ赤になっている魅音をよそにいつものように今日も大盛り上がりの俺達だった。



あとがき