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かくれんぼ
(圭魅)

今日、私達は部活メンバー全員で雛見沢から少し離れた民宿へ遊びに来ていた。
緑に囲まれ、他には何もない所だったけど、私達部活メンバーにとっては格好の遊び場所だった。
そして、宿舎の近くの芝生にみんなを集め、いつものようにゲームの説明をしていた。
「よーし、今日はかくれんぼをしよう。制限時間一時間で逃げ切れたら勝ち。逆に鬼が全員見つけられたら鬼の勝ち。
これだけ広いと探すのも大変だねぇ?」
私はクックックと舐めるように鬼を見て笑った。
今日の鬼は圭ちゃんだ。
「へっ、すぐ見つけてやるぜ」
圭ちゃんはいつものように口先だけは威勢のいい事を口走る。
「じゃあ始めるよ!よーいスタート!」
そして私の合図でみんなは散り散りに走り出した。


しばらく走って、外れの木の茂みへやってきた。
茂みの向こう側はちょっとした高さの崖になっていて、その奥の方に廃れた木造の小屋がある。
その小屋へ行くためには崖ギリギリの所を渡らなければならないので少し危ないのだが、運動神経には自信があるので大丈夫だろう。
例え落ちたとしても致命傷を負うような高さではないし、この高さなら自力で這い上がる事もできる。
あそこに隠れていればそうそう見つかりはしないだろう。
そう思ってひょいひょい崖のふちを渡って行った。
ところが、数歩歩いた所で片足を踏み出すと足場が崩れて私は崖から転げ落ちた。
とっさに体勢を立て直し頭から転落する事はなかったが、着地するときに足を挫いてしまった。
「いったぁ~!足挫いた~!」
足に走った痛みに、怪我した個所をさすり、しばらくその場にうずくまった。
「うう、私とした事が!まさか足を挫くとは…」
そしてしばらくそのままの体勢で崖を見上げた。
この高さなら自力で登れる。そう思っていた。
だがそれは怪我をしていなければの話だ。片足を負傷した状態は想定していなかった。
足の痛みが治まってきた頃、登ろうと試みたが、やはり無理だった。
「こうなったら誰かが探しに来てくれるのを待つしかないか…」
誰か見つけてくれるよね…?
ここは隠れるには最適の場所だ。しかし逆に言えばここは見つけ辛い場所だという事。
私は若干の不安を抱きながら崖の上を見上げた。



「あーくそー!魅音の奴どこ行きやがったんだ!魅音さえ見つかれば俺の勝ちだったのに!」
制限時間が過ぎ、最初の広場に戻ってきた俺は悔しさに大声で喚き散らしていた。
「おーっほっほ、残念でしたわね!流石魅音さんですわ」
「…でも魅ぃちゃん遅いね。そろそろ帰って来てもいい頃なのに」
「宿にも戻ってきてませんです」
その声に振り向くとレナと梨花ちゃんがそわそわと辺りを見回していた。
そういえば…確かにゲームオーバーから既に一時間が経とうとしている。
「まったく、いつまで隠れてるんだあいつは」
「まさか何かあったんじゃ…」
レナが心配そうに俺に視線を送ってきた。
「…しょうがねえなぁ、探しに行くか!こうなったら制限時間なんて関係ない、意地でも探し出してやる!」
「じゃあレナはあっち探してくるね」
「わたくしはこちらを探しますわ!」
「ボクは魅ぃが帰ってくるかもしれないので宿で待っているのです」
俺達は再び八方へ散り、魅音を探しに行った。



制限時間はとうに過ぎ、そろそろ日が落ちる時間にさしかかっていた。
あの後もあらゆる手段を考え登ろうとしたがことごとく失敗し、困り果てていた。
少しずつ傾いてゆく太陽と共に不安が募り、私の不安はピークに達した。
少し遠くまで来すぎてしまっただろうか。
このまま誰にも見つからなかったらどうしよう…
「…圭ちゃん、早く見つけてよぉ…」
積もりに積もった不安に、不覚にも涙が滲んだ。
その時、遠くから人の声が聞こえ、ハッと顔を上げた。
「おーい、魅音どこだ~?出てこい!」
噂をすればなんとやら、その声は私がたった今思い浮かべていた人の声だった。
私は力の限り大きな声で叫んだ。
「圭ちゃん!こっちこっち!」
「魅音?どこだ?」
「崖の下!」
「崖ぇ?!」
圭ちゃんはどうやらこちらに気付いたようで、頭上でガサガサと音がした。
そしてとうとう圭ちゃんが姿を現した。
その姿を捉えるなり、感情が高ぶり今までの不安を圭ちゃんにぶつけた。
「もう、圭ちゃん遅いよ!いつまで待たせるつもり?!」
「そりゃこっちの台詞だ!お前そんな所で何してるんだよ!」
「足挫いて登れないの!」
「はぁ~?!何やってんだよ仕方ねぇなぁ。どうやって降りるんだコレ」
「そっちの方にちょっと岩がゴツゴツしてる所があるからそこから降りられるけど…」
キョロキョロと降りられる場所を探している圭ちゃんに、私が登ろうとしていた場所を教えた。
「お、本当だ」
「足元崩れやすいから気をつけてね!圭ちゃんまで落ちたらまた待たなきゃいけないんだから!」
「分かってるよ、そんなヘマしねえよ」
私は圭ちゃんが降りてくるのをハラハラしながら見守った。
そして圭ちゃんは私の所まで来て崖の上を見上げた。
「降りて来たはいいがどうやって登るかな~」
圭ちゃんは何も考えていなかったらしく腕を組み唸った。
どうやって助けてもらうかなんて考えていなかった私も同じだけど。
「やっぱり担いで登るしかないよな~」
しばらく考え込んでいた圭ちゃんはそう呟くと、私に背を向けしゃがみこんだ。
「ほら、乗れよ」
「え…私を背負ったまま登れるの?大丈夫?」
その圭ちゃんの行動に驚いて目を見開いた。
「落ちても責任はとれないけどな」
「誰か呼んできた方が…」
「そんな事してたら日が暮れるだろ。いいから早く乗れよ」
私は少し躊躇ってから、意を決して圭ちゃんの背中に覆い被さった。
「魅音、ちゃんとしがみついてろよ。俺は手使えないから支えられないぜ」
「わ、分かってるよ。圭ちゃんこそ落ちないでよ!」
「魅音が大人しくしてればな」
圭ちゃんは私を背負って立ち上がるとさっきの岩場へ向かった。
「圭ちゃん気をつけてね。本当に大丈夫?」
「大丈夫だって。お前こそ落ちるなよ?」
心配になって聞くと圭ちゃんは力強く笑って答えた。
私は圭ちゃんに体を預け、ぎゅっとしがみついた。
いつも細いと思っていた、それでも広くてがっしりした背中に、改めて男の子だなと実感した。
圭ちゃんが岩を伝って崖をゆっくり登っていく。
時々足場を教えたりしながら、圭ちゃんが踏ん張って登ったり、滑りそうになったりするのを背中からハラハラ見守った。

そしてついに圭ちゃんは無事に崖を登りきった。
「あぁーやっと登れた!」
圭ちゃんはそのままその場に膝と手をついてぜぇぜぇ息をついていた。
「圭ちゃん大丈夫?」
私は圭ちゃんから降りて座り込んでその背中をさする。
ようやくホッと体から力が抜け、それと共に圭ちゃんが来てくれて良かったという思いが込み上げた。
「…圭ちゃん、ありがとう」
「この貸しはでかいぜ!当分罰ゲーム肩代わりだな」
「それはダメ!罰ゲームは絶対!」
私がお礼を言うと、圭ちゃんは顔を上げて息を整えながら笑った。
「さて、のんびりしてる場合じゃないな。早く行かないと真っ暗になるぞ」
そう言って圭ちゃんはさっきと同じように背中を向けて乗るよう促した。
「え…いいよ自分で歩けるよ!」
「そんな足でのろのろ歩いてたら真っ暗になって帰れなくなるぜ?まったくこんな所まで来やがって」
私は戸惑って否定したが、結局言いくるめられて再び圭ちゃんに背負われた。


気づけば辺りはすっかりオレンジ色に染まり、日が暮れようとしていた。
私は圭ちゃんの背中にしがみつきながら、嬉しいような恥ずかしいようなふわふわした気持ちに包まれていた。
憎まれ口を叩きながらも私を背負って一生懸命崖を登って、疲れただろうに帰り道まで背負ってくれた圭ちゃんの優しさが嬉しかった。
「…圭ちゃん、今日は頑張ってくれたから罰ゲーム一回免除してあげてもいいよ」
「一回だけかよ。割に合わねえな」
「あんな罰ゲームやこんな罰ゲームをやる事を考えたら十分だと思うけど?結局自力で私を見つけられなかったしね」
「お前が変な所に隠れてるからだ!むしろあんな所まで探しに行ってやった俺に感謝しろ!」
「はいはい、ありがと!」
私は上機嫌になり、圭ちゃんにしがみつく腕に力を込めた。
「ぐえっ、苦しい苦しい!首を絞めるな!」
「あ、ごめん」
「お前なぁ!振り落とすぞ!」
「落ちないもんね!」
私は再び腕に力を込めた。
「ぐっ、本当に危ないからやめろって!」
私達はふざけながらも笑い合い、みんなの元へと帰って行った。



「あっ、魅ぃちゃんだ!どうしたの?何があったの?」
「一体どこへ行ってたんですの~?!」
私達が戻ると、みんなが駆け寄ってきて口々に質問が飛んできた。
「崖から落ちて足挫いたんだとよ。全く人騒がせな奴だぜ」
「崖って?大丈夫だったの?」
「魅ぃが帰って来ないからみんな心配していたのですよ」
「いやあ面目ない。大丈夫、そんなに高くなかったから平気だよ」
みんながが心配そうに覗き込んで来て、私は頭をかいて謝る。
そして圭ちゃんが私を下ろした。
「あー重かった」
その一言に私は凍りつく。
そして圭ちゃんを突き飛ばした。
「だから自分で歩くって言ったのに!やっぱり圭ちゃんには罰ゲーム!」
「うわっ?!ちょっと待て!今日はビリじゃないぞ!」
「全員見つけられなかったから罰ゲームだよ!」
「なんだそりゃあ!おい、待てよ魅音!」
私は怒って圭ちゃんを背に足を引きずりながら歩いていった。

圭ちゃんのバカ。
助けてくれて嬉しかったのに…本当に一言余計なんだから。

帰ったらとびっきりの罰ゲームくらわせてやらなきゃ!



あとがき