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おんなのこの魔法
(圭魅)

「もう少しで綿流しのお祭りですわね!」
綿流しもいよいよ今週に迫った今、沙都子が待ちきれないとばかりに楽しそうに話題にする。
「ボクも魅ぃも大忙しなのです」
確かに最近、梨花ちゃんも魅音も祭の打ち合わせで呼ばれる事が多くなっていた。
現に今も魅音は打ち合わせ中だ。
「梨花ちゃんは巫女さんかぁ…きっと袴姿似合うんだろうな~」
「うんうん!梨花ちゃんの巫女さんかぁいいんだよ~!はう~~お持ち帰り!」
巫女さん姿の梨花ちゃん………
レナじゃないが、想像しただけで、はう~かぁいい!
「圭ちゃん、妄想する前にやる事があるでしょ!」
レナに感化されて一緒になってかぁいいモードになっていた所に、ノートの背表紙で後頭部をパコンと叩かれた。
「いでっ!…魅音!おまえいつの間に!」
突然背後から現れた魅音に振り返り、恨めしい目で睨みつけた。
「圭ちゃん今日日直でしょ?日誌取りに来ないって知恵先生怒ってたよ」
魅音は俺を殴ったノートを差し出した。
その正体は日誌だったのだ。
「あ、いけね忘れてた」
「で、何の話してたの?随分鼻の下伸ばしてだらしない顔してたけど?」
魅音が嫌みったらしく腕組みをして俺を見つめてくる。
「圭一がボクのコスプレを妄想してあらぬ事を考えていたのです」
「ええ、あの顔はおかしな事考えてたに違いありませんわ!」
沙都子もここぞとばかりに梨花ちゃんに加担して俺を陥れようとする。
「へえぇ~!圭ちゃんってそんな趣味があったんだ~。下手したら犯罪だよ?」
魅音が途端にドス黒いオーラを放ち指の関節をバキバキ鳴らした。
「り…梨花ちゃん!沙都子もなんて事言うんだ!コスプレじゃないだろ~?!」
「こすぷれ…梨花ちゃんの巫女さん姿かぁいいって話をしてたんだよね!ね?」
レナがピンチの俺にフォローを入れてくれた。
「巫女さん?あ、そうだ、婆っちゃが袴出来たから試着しにおいでって言ってたよ」
「み~。ありがとうなのです」
魅音は巫女という言葉で何かを思い出したらしく梨花ちゃんに向き直り、俺は一命をとりとめた。
「そういえばさ、祭って着物とか着ていくのか?」
話を逸らす為に、俺は魅音に話かけた。
「そんな大層な祭じゃないから普段着でいいよ」
「あ、でも浴衣着ていくのもいいんじゃないかな?せっかくのお祭りなんだし!」
「え~?動きにくいじゃん、部活もあるし」
「魅ぃちゃんは圭一くんの浴衣姿見てみたくないのかな?かな?」
「圭ちゃんの浴衣…?むむむ…」
レナの提案に魅音がゴネていたが、レナの言葉に魅音が急に大人しくなった。
「ね、決まり!綿流しはみんな浴衣着て来ようね!」
レナが楽しそうに手を合わせて笑った。
「でもわたくし浴衣なんて持っていませんでしてよ?」
「沙都子の浴衣はボクが作ってあげますですよ」
少ししょんぼりした沙都子に、梨花ちゃんが頭をなでなでしながら言った。
こうして祭は浴衣で行く事に決定した。


綿流し当日。
母さんに浴衣を出してもらい、何年ぶりかの浴衣を着て家を出た。
レナと合流し、魅音との待ち合わせ場所に向かった。
魅音は珍しく先に待っていた。傍らには同じ顔の妹も。
「よう魅音早いじゃねぇか。今日は詩音も一緒か」
「圭ちゃんレナさんこんばんは」
「は…はう~魅ぃちゃんと詩ぃちゃんお揃いでかぁいいよ~!二人まとめてお持ち帰り~!」
「こら、これから祭行くのにお持ち帰りしてどうするんだ」
今にも二人に襲いかかろうとするレナの頭を掴んで抑える。
魅音は白で詩音は紺の同じ柄の浴衣を着ていた。
ちなみにレナは女の子らしくピンク色の浴衣だ。
にこにこ楽しそうな詩音に対し、魅音はもじもじ恥ずかしそうにしていた。
「圭ちゃん、この浴衣圭ちゃんの為に一生懸命選んだんだよ。ねぇ可愛い?」
「ぎゃ~~何言ってんの詩音!!勝手に変な事言うな!」
俺の視線に気付いたらしい詩音が魅音の影から魅音のフリをして喋っていた。
魅音を見ていた俺にはバレバレなんだけど、魅音は顔を真っ赤にして詩音に吠えている。
「あ、今日は魅音リボンしてるんだな」
魅音が横を向いた時、ひらひらしたレースの白いリボンが目に入った。
「可愛いでしょ?」
もうバレバレだというのに詩音がまだ魅音の真似をして俺に訴えかけてくる。
「あんたは黙っててー!!これは詩音が勝手に…!」
「いいんじゃないか?こういうのも案外似合うんだな」
「ふぇっ…?!」
俺が思った事を率直に口にすると魅音がボンっと頭から湯気を上げ固まってしまった。
「おい…魅音?」
「は…はううぅぅ!今日の魅ぃちゃんとってもかぁいいよ~!お持ち帰り~!」
レナが茹で蛸のようになった魅音にタックルでもするかのような勢いで抱きついた。
レナに抱きつかれて魅音は我に返ったようだ。
「ささ、早く行きましょ!沙都子と梨花ちゃまがお待ちかねですよ~!」
詩音に促され俺達は古手神社に向かった。


そして梨花ちゃんと沙都子と合流した。
梨花ちゃんは巫女さん姿、沙都子は梨花ちゃんお手製の可愛い柄の浴衣を着ていた。
「おお~、やっぱり梨花ちゃん似合ってるなー」
「みー。あんまりジロジロ見られると恥ずかしいのです」
恥ずかしそうな素振りを見せる梨花ちゃんにレナが興奮して捕食されたのは言うまでもない。
「沙都子の浴衣梨花ちゃんが作ったのか?すごいな。既製品と変わらないぜ」
「梨花の浴衣が既製品に劣ると思っていまして?むしろ既製品なんかよりずっと丁寧で丈夫なんですのよ!おーっほっほ!」
沙都子が梨花ちゃんの手作りの浴衣を嬉しそうに、自慢気に語ってみせた。
「ほー?そんなすごい浴衣沙都子には行き過ぎなんじゃないのか?」
「な、なんですってぇ~?!」
沙都子と少しの応酬をしていたが、沙都子が口先で俺にかなわないと分かるとレナに泣きつき、
あえなく俺はレナからパンチをくらって倒れたのだった。
「まったく、小さい子にデレデレしてるからだよ!」
地面に倒れた俺を魅音が上から見下ろしニヤリと笑っていた。
さっきまで恥ずかしそうにもじもじしてた魅音はどこへ行ったんだ…!



そして俺達はいつもの部活のように露店を荒らして回った。
そのうち段々人が増えてきて、通路が人で溢れかえってくる。
そんな中、俺がふとよそ見をしているうちに…

みんなを見失ってしまった。

「あれっ?!レナ?梨花ちゃん、沙都子?」
辺りをを見回してみても姿を見つける事はできなかった。
だが、どこからか俺を呼ぶ声が聞こえた。
「圭ちゃん、圭ちゃん!」
「魅音?どこだ?」
「こっちこっち!」
声のする方を丹念に探すと、わずか後方の対岸で魅音が手を振っているのが見えた。
人をかき分け魅音の所へ向かった。
「魅音、みんなはどこ行った?」
「わかんない…いつの間にかいなくなってて…」
魅音が心なしか不安そうに目を揺らせているように見えた。
「ったく…どこいったんだあいつら」
「圭ちゃん…どうしよう…草履が壊れちゃったの…うまく歩けなくて」
「え?大丈夫か?じゃあとりあえず人のいない所へ行くか」
それで不安そうにしてたのか…
魅音ってこんな頼りない顔する奴だったっけ…?
「魅音、少し歩けるか?」
そう言って魅音に手を差し出した。
何故か俺が助けてやらなきゃいけないような気がした。
「…う、うん…」
魅音は少し躊躇っていたが、そっと俺の手を握った。
その手は予想以上に白くほっそりしていて、強く握ったら折れてしまうのではないかと思う程華奢だった。
よく見るとその指には薄いピンク色のマニキュアも塗られている。
女の子の手だという事を改めて意識させられて、不意に胸が高鳴る。

…な、なに魅音相手にドキドキしてるんだ俺は?

これ以上魅音を見ていると自分がどうにかなってしまいそうで、魅音に背を向けてその手を引きながら人混みの中を歩き出した。
「ちょっと圭ちゃん、早いよ…もうちょっとゆっくり歩いて」
魅音が困ったように俺に言った。
「あ、ごめん」
そんなに早く歩いていたつもりはなかったのだが、いつの間にか早足になっていたようだ。
改めて俺はゆっくり歩き出した。


少し歩いて、人気のない脇道の大きな岩の上に腰掛けた。
「ほら、草履見せてみろよ」
「うん」
魅音が草履を片方脱いで俺に差し出した。
草履の鼻緒が途中でぶっつり切れていた。
頑丈そうにできているのに、こんなに綺麗に切れるものなのか?
「あ~あ、ぶっつり切れちゃってるな。どうやったらこんな風に切れるんだ?慣れない物履くから…」
「…どうせガサツだもん…」
魅音は俺の言葉を遮っていじけたような低い声でそう言った。
「魅音?」
「こんな可愛い浴衣だって私には似合わないし…やっぱり浴衣なんて着てくるんじゃなかった…!」
魅音は俯いて声は今にも泣き出しそうに細くなっていった。
「似合ってるよ」
無意識のうちに俺はきっぱりとそう言い放っていた。
反射的だったけど、お世辞なんかじゃない、心からの言葉だった。
「そんなお世辞なんていらない!」
「お世辞じゃねぇよ!」
何故か感情的になって声が大きくなってしまった。
「その綺麗な花柄の浴衣、似合ってるぜ。そのひらひらした可愛いリボンだって似合ってる。
そのうっすらピンクのマニキュアも、サラサラ流れる長い髪も…」
無意識に言葉が溢れ出し、自分でも何を言っているのかわからなかった。
「…け…圭ちゃん?!」
魅音の声で我に返り、その紅く染まった頬を見て、自分がとんでもなく恥ずかしい事を言っていた事に気付く。
ていうか、俺魅音を口説いてる…?!
その途端、体中の血液が顔に集まっていくかのような感覚を覚えた。

ああもう俺はどうしちまったんだ?!
さっきから魅音にペースを崩されてばっかりだ。
魅音が浴衣なんか着て照れたりするから…
その白いリボンが、その不安げな瞳がゆらゆら揺れる度に俺の心をかき乱す。

……ああそうか。
俺がこんなに心をかき乱されるのも魅音が恥じらいに頬を染めているのも、きっとこの可愛らしい浴衣のせいだ。
俺がおかしな事を口走ってしまったのも魅音が弱気になって不安そうな瞳をしているのも全部全部、
魅音のいつもと違う女の子らしい格好のせいなんだ。

お互い真っ赤になって何も言えずにいると遠くで大太鼓の音が響いた。


「あっ…!奉納演舞が始まっちゃう!」
魅音がはっとして音のした方を見た。
「魅音、お前これ履けよ」
俺は自分の草履を脱いで魅音に突き出した。
「えっ?でも圭ちゃんが…」
「草履が辛くなってきた時の為にスニーカー持ってきてるんだ。足痛くなってきた所だし丁度良かった」
草履を渡してスニーカーを取り出すと魅音は納得したようだった。
「ありがとう…」
俺の草履は魅音にはちょっと大きかったみたいだが、鼻緒が切れた草履よりはマシだろう。
再び魅音の手を取り、奉納演舞を見ようと急ぐ人の群れに紛れ込んだ。
「…け…圭ちゃん?!」
「またはぐれたら困るだろ」
魅音が後ろでそわそわしているのが気配で分かる。
俺は振り向かずに魅音の手を引いて歩いていく。
だって自分から手を握っておいて真っ赤になったカッコ悪い顔なんて見せられないから。


そして何とか奉納演舞の儀式に間に合い、人垣の間から梨花ちゃんの晴れ姿を覗き見る。
周りにギャラリーがひしめいていて手元が見えないのをいいことに、俺は魅音の手を握ったままでいた。
「圭ちゃん…あの…手…」
「…なんか言ったか?」
魅音の言いたい事は分かっていたが、わざと聞こえないふりをしてすっとぼけた。
聞き返してやると魅音は更に顔を真っ赤にして何も言えずに口ごもった。

明日になってこの魔法が解けてしまったらもうこんな魅音は見られないかも知れない。
俺だっておかしな魔法にかかった今でなければこんな恥ずかしい真似は二度とできないだろう。
だから今日だけはずっとこうしていたかった。

魅音の手を握る力をわずかに強める。
すると魅音は驚いて身を固くしたが、やがて魅音も同じようにきゅっと俺の手を握り返してくれた。
俺達は儀式が終わるまでずっと手を繋いだままだった。


「あっ、魅ぃちゃん達いたよ!」
「もー!圭ちゃんにお姉、二人でどこ行ってたんですか?」
儀式が終わった後、その場に立ち尽くしていた俺達をみんなが見つけて駆け寄ってきた。
詩音は言葉とは裏腹に笑いを隠せないといったようにニヤニヤ笑っていた。
よく見るとみんな同じように顔に笑みが浮かんでいた。
「お姉、切れた草履はどうしたんですか?」
まだぼけーっとしている魅音に詩音が耳打ちした。その声はこちらにも筒抜けなのだが。
「な…何で知ってるの?!」
「あら、この大きさは圭ちゃんのですね?圭ちゃんがスニーカー持ってるのは予想外でした。
おんぶくらいしてくれるかと思ったんですが…でも面白かったからOKです☆」
詩音がさらっととんでもない事を言ってウィンクをする。
「まっ…まさかあの草履あんたが…?!」
魅音が何かに気付いて騒ぎ立てた。
なるほど、どおりであんなに綺麗に切れてた訳だ。
「お姉は面白いくらい思った通りに動いてくれましたね。それにしても圭ちゃんは予想以上でした」
「まままままさか!見てたのっ?!」
魅音が真っ赤になって後ずさった。
「圭ちゃんよくもまぁあんな恥ずかしい台詞真顔で言えたもんですね」
詩音がくすくす笑いを堪えながら俺の肩を叩いた。
どこか他人事のように見ていた俺もさすがに気付いて大声で叫んだ。
「詩音んんんん~~~てめぇ!!」
今まで必死に笑いを堪えていたらしい他のメンバーも一斉に笑い出した。
「ボクは最後まで見られなくて残念だったのですよ」
「お前らも勝手に覗いてんじゃねえぇ~~!!」
俺が怒って叫ぶと同時にみんなバラバラに走り出した。
そのうちの誰かを追いかける。そうでもしなければ恥ずかしくて頭がどうにかなってしまいそうだった。
「わぁ~魅ぃちゃん倒れちゃったよ?!」
その声に振り向くと真っ赤になって気を失った魅音をレナが支えていた。
「あらら…じゃあ後は圭ちゃんに任せて帰るとしますか。あ、言っときますけどダウンのお姉に手だしたらタダじゃおきませんからね?」
「だぁれのせいだコラァ!!」
「…詩ぃちゃん、ちょっとやりすぎだったんじゃないかな?魅ぃちゃんの前で言わなくても…」
「何言ってるんですか。どっちにしたって見てた事には変わりないんですから」
「くっそ~!!お前ら覚えてろよ!」
結局詩音は興宮の実家へ帰ってしまい、俺が園崎本家まで魅音を送り届けるハメになった。
そこで綿流し後の宴会に巻き込まれ、散々魅音との事を根掘り葉掘り聞かれた。


――翌日、俺と魅音の噂は村中に広がってこの日の事は周知の事実となっていたのだった…




あとがき