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エンジェルモートにて
(圭魅)

興宮での用事の帰り、エンジェルモートで一休みしていた時の事。
俺は何が起こったのか一瞬理解出来ず固まった。
よく見慣れた、それでいてこの場にいるはずのない人物がウェイトレスとして立っていたからだ。
「……魅音…か?」
一応その正体を確かめる為に聞いてみる。
詩音だったらわざわざポニーテールになんかしないはず。
「け…圭ちゃん!どうしてここに?!」
奴も想定外の事態に頬を染め慌てている。
間違いない、魅音だ。
「それはこっちの台詞だ!茶吹くかと思ったぞ」
「だって詩音が…急用で代わりに出て欲しいって言うから…なんでこんな時に…」
魅音は俺に制服姿を見られたのがよほどショックだったらしく、軽く皮肉を言っても何の反応も返ってこなかった。
これじゃあ『どうぞからかって下さい』って言ってるようなもんだぞ。
俺の中の悪戯心…復讐心がむくりと目を覚ました。
「いたら悪いか。興宮で知ってる飲食店っていえばここだけだからな。
それよりこんな所で会うとは思わなかったなぁ?まさか魅音の制服姿が見れるとは。
お前も胸だけは一丁前だからな、たまにはこういう格好もいいんじゃないか?
胸なんか今にもこぼれそうじゃないか。暴れすぎてうっかり脱げないよう気をつけろよ~」
「…そ…そんな事するわけ…!」
魅音はとっさにお盆で胸を隠し、顔を真っ赤にしながら反論しようとしたが、畳み込むように反撃を加える。
「こら、隠しちゃダメだろ。見せるために着てるんだから」
「……ううっ…だ、だって…」
魅音は今にも泣き出しそうになりながら、必死に何か言い返そうと口ごもる。
だが、もはや恥ずかしさで頭が真っ白になっているのかで出てくるのは唸り声ばかりだった。
そんな普段は見られない魅音の様子にフツフツと心の底から何かが込み上がってきて、妄想のスイッチが入る。
「しかし詩音の制服姿もいいけど魅音の制服姿もまた違った味わいがあっていいよな」
「……え?…」
「詩音がお淑やかなお嬢様タイプ(実際の所は置いといて)だとしたら魅音はそそっかしいおてんば娘だな!
うっかり転んでケツ晒すような恥ずかしい事するなよ?」
「…っ!…バカぁ!圭ちゃんの変態!」
俺が客なのをいい事にしつこく言葉責め…もとい日頃の恨みをぶつけると、魅音はとうとう耐えきれずに声を張り上げてしまった。
「…み…魅音…声大きい…」
周囲の視線が一斉に俺達に注がれる。
流石に人前である手前、ここまで大声で叫ばれるとは思わず縮こまってしまう。
魅音もはっとして辺りを見回した。
「…っ…もう!圭ちゃんのせいだからね!」
魅音は周囲の視線に耐えきれなくなり、真っ赤になってポニーテールを翻しながら走り去って行った。




「圭ちゃんのバカ…最低っ」
圭ちゃんの挑発につい乗せられてしまって逃げるようにフロア袖まで駆け込んだ。
「園崎さん、大丈夫?」
他のスタッフに声をかけられ、振り返る。
「あ…はい、すみません」
「悪いけどこれ運んでもらえるかしら?」
「分かりました」
「変な客も結構いるから気をつけてね」
「はい」
変な客に絡まれたと思われたのかな…
私は密かに苦笑する。


そして再びフロアに戻った。
なるべく圭ちゃんの近くを通らないように細心の注意を払いながら。
注文の品を運び、戻ろうとした時、客に呼び止められた。
「ねぇ、君可愛いね。歳いくつなの?」
「え?…あの…」
な…何こいつ?!ナンパ?
仕事に精一杯で、想定していなかった事態に一瞬戸惑った。
「あ、服にゴミ着いてるよ」
その男がニヤニヤしながら手を伸ばしてきた。
その手が胸のあたりへ向かってきて、その意図を理解する。

えっ…ちょっとやだ、気持ち悪い!

「ちょっと待てよ!」
その手を振り払おうとしたその時、怒りに満ちた声が飛んできた。振り向くと圭ちゃんがこちらへズカズカ歩み寄ってきていた。
うそ…圭ちゃんの座っていた位置から遠い所を通ってきたのにどうして?!
「…け…圭ちゃん…」
「今胸触ろうとしただろ!」
圭ちゃんが私と男の間に割り込み、男に食ってかかった。
「人聞きの悪い…俺はゴミを取ろうとしただけだ」
「ゴミを取る為なら触ってもいいのかよ!」
圭ちゃんは男をキッと睨みつける。男も反射的に睨み返す。
「とにかく、次こいつに触れたらタダじゃすまねぇからな!」
圭ちゃんは啖呵を切って相手と睨み合った。
私はお盆を胸に抱き抱えてハラハラしながら見守るしかなかった。
しばらく睨み合っていたが、そのうち相手がチッと舌打ちして折れた。
「園崎さん、ちょっといいかしら?」
「あ…し…失礼します」
他のスタッフに呼ばれてその場から逃げ出した。


呼ばれた方へ行くとそこには…
「はろろ~んお姉!頑張ってますか?」
「詩っ…詩音!あんた用事があったんじゃないの?」
「早く済んだので様子を見に来ました。苦労してますね~?あんなセクハラ野郎軽くあしらえなきゃやっていけませんよ?」
「もう散々だよ~!変わってよ!」
「バイト代頂いてもいいなら変わりますけど?」
そう言うやいなや突然詩音は表情を変えてニヤ~と笑い出した。
「でも良かったじゃないですか。圭ちゃんに助けてもらえて!圭ちゃんにしてはかっこよかったじゃない?お礼は言ったんですか?」
「い…言ってない」
詩音がひらっとチケットを取り出し、私の目の前に突き出した。
「仕方ないですね~これでデザート一品無料です。このチケット単発のバイトじゃ貰えないんですよ?」
「詩音…ありがとう」
「ちゃんと圭ちゃんにもありがとうって言うんだよ!」
「うん」
詩音に背中を押されて再びフロアに出た。


「圭ちゃん…」
「お、魅音大丈夫か?良かったな俺がいて。あのままじゃ魅音が大暴れして大変な事になってただろうな!」
「余計なお世話だよ!あんなセクハラ野郎圭ちゃんに助けてもらわなくたって平気なんだから」
つい売り言葉に買い言葉で返してしまって後悔する。
「よく言うぜ、情けない顔してたくせに」
「な…何言ってんの?!」
少しのやりとりをした後、持ってきたデザートを差し出した。圭ちゃんの好みは詩音から聞いてリサーチ済み。
「なんだよこれ、俺頼んでないぞ」
「これをレジで見せればタダになるから」
そう言ってチケットをテーブルに置いた。
「いいのか?………じゃ、遠慮なく頂くぜ!」
圭ちゃんは私の顔をじっと見つめた後、満面の笑顔で笑った。
「あ、そういえば今日バイト何時までだ?」
「ん?あと30分で終わるよ」
「なら一人で帰るのもなんだし一緒に帰ろうぜ」
「圭ちゃんがどうしても寂しいって言うなら一緒に帰ってあげてもいいけど~?」
「ばぁか、そりゃこっちの台詞だ!」
圭ちゃんの申し出はすごく嬉しかったのに、つい条件反射で憎まれ口を叩いてしまう自分が悲しい。


こうしてエンジェルモートでの波乱万丈な一日が終わった。
バイトを終え、私達は詩音にからかわれながら店を後にした。

「いやー今日はとんだ一日だったな」
「本当だよ!圭ちゃんは来るし変な奴に絡まれるし」
圭ちゃんにだけはあんな姿見られたくなかったのに…
「あの店のウェイトレスは大変だよな。毎日あんなの相手にしないといけないなんて」
「詩音みたいに図太くなきゃやってられないよ」
「はははは、確かに詩音は見かけによらずしたたかだよなー。でも、魅音も案外ああいうのは弱いんだな」
「あ…あれはいきなりだったからびっくりしただけで…!」
「はいはい、普段はナンパされるような事なんてないもんな~」
「なによ~!」
圭ちゃんはニヤニヤしながら私を軽くあしらった。
全くこの男は…!

いつものように賑やかに話をしていたが、二人の会話が一瞬途切れた。
…そういえば圭ちゃんにまだお礼言ってなかったな…

「圭ちゃん」「魅音」
喋り出そうとすると圭ちゃんと声が被ってしまった。
「な…なに?」
「魅音が先でいいよ」
「私は後でいいよ!圭ちゃんが言ってよ」
「なんだよ。言えって」
「圭ちゃんこそ!」
圭ちゃんはこのままでは不毛だと思ったのか、一呼吸置いてから口を開いた。
「じゃあ俺から言うぞ。…その、さっきは言い過ぎてすまなかった」
「…え?あ…謝るくらいなら最初からあんな事言わないでよ!明日の部活は覚えてなよ?!」
「すまん。調子に乗りすぎた。まさかあそこで大声出されるとは思わなかった」
「け…圭ちゃんがあんな事言うからじゃない!」
思い出して、再び頭に血が登って大きな声を出してしまった。
「悪かったよ」
圭ちゃんはいつもレナにするように私の頭を乱暴にわしゃわしゃ撫でた。
何だか馬鹿にされているような気もしたけど、その手に撫でられると恥ずかしさや怒りが嘘のように引いて何も考えられなくなっていた。
「で、魅音の話はなんだよ」
「あ…うん」
忘れていたところに突然言われて私は口ごもった。
「…あ、あの……さっきは助けてくれて…ありがとう」
私は圭ちゃんの顔も見れず俯いたままで、声も小さくなっていた。
「別にお前の為じゃないぜ。ああいうセクハラ野郎は許しておけないからな」
圭ちゃんはそっけなく言い放つと、急にふざけた笑いを浮かべた。
「でも俺の勇姿、かっこよかっただろ?」
「え…?…あ…」
思い出した瞬間、体が熱くなって思考が止まってしまった。

…悔しいけど…あの時の圭ちゃんは本当にかっこよかった…

顔が真っ赤になっているのが自分でも分かる。
でも圭ちゃんに視線をとらわれ動けなかった。

圭ちゃんも流石にそこで黙られるとは思ってなかったようで、照れくさそうに視線を逸らした。
「…そ、そこで黙られると恥ずかしいんだけど…」
俺はナルシストか、と自分でつっこみも入れている。
気付けばもうそこはいつもの別れ道だった。
「かっこよかったよ…」
「え?」
「じゃあまた明日ね!」
こうなったら逆にからかってやろうかと思ったけど、一言呟くだけで精一杯だった。
顔を赤くしている圭ちゃんの返事を待たず、逃げるように駆け出した。
「み…魅音?!」
私は圭ちゃんの呼びかけに答えず走り去る。
もうこれ以上真っ赤になった顔を見られたくなかったから…



あとがき